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奈良地方裁判所 昭和26年(ワ)95号 判決

原告 株式会社南都銀行

被告 寺延政豊 外七名

一、主  文

別紙<省略>物件表記載の不動産について、被告寺延ハマ子がその二十一分の七の、被告寺延勢津子同寺延幸一同寺延幸子同寺延克政同寺延治同寺延順市が各その二十一分の二の各持分をいずれも昭和二十六年一月二十六日附で被告寺延政豊に贈与した行為は、これを原告のため取消す。

被告寺延政豊が前項掲記の不動産について為した昭和二十五年五月十八日神戸地方法務局受附第一一、一〇七号及び同日同地方法務局受附第一一、一〇八号を以て為した所有権取得登記の抹消登記手続を為すことを命ずる。

原告の被告寺延政豊に対するその余の請求及び同被告を除くその余の被告等に対する請求は、いずれもこれを棄却する。

訴訟費用はそのうち原告と被告寺延政豊との間に生じた部分はこれを五分しその一を原告の、その余を同被告の各負担とし、同被告を除くその余の被告等と原告との間に生じた部分はこれを原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一、二項と同旨及び

被告八名が別紙物件表記載の不動産について被相続人寺延政夫死亡による共同相続を原因とする所有権取得登記手続を為すことを命ずる。訴訟費用は被告の負担とする。

との旨の判決を求め、その請求の原因として、

訴外寺延政夫は原告に対し金七万二百十二円四十銭の約束手形金債務を負担していたが昭和二十五年一月二十六日死亡し被告ハマ子はその妻として、その余の各被告はいずれもその子として、共同して相続により右訴外人の原告に対する債務を承継し、右は被告等において法定期間内にその相続の限定承認又は抛棄をしなかつたのでその単純承認をしたとみなされたものである。

別紙物件表記載の不動産はもと右亡政夫の所有に属し被告等において相続により共同してその所有権を取得したものであるが、被告政豊を除くその余の被告等は昭和二十五年五月十八日同被告等に対する原告の債権を害することを知りながら右不動産に対し有する同被告等の持分をそれぞれ同年一月二十六日附で被告政豊に贈与し、同被告は右不動産の単独所有権を取得し同不動産について主文第二項掲記の各登記を経由した。

そうして被告政豊を除く各被告は他に財産が無いから右贈与は原告に対する詐害行為となるので、原告は受益者たる被告政豊との関係において右行為の取消を求め、同被告に対しその経由した前記各所有権取得登記の抹消登記手続を求め、被告八名に対し別紙物件表記載の不動産についての前記相続を原因とする所有権取得登記手続を求める。

と陳述し、被告等の答弁事実を否認し、

本件手形金債権の弁済期は昭和二十四年六月三十日であるが原告はその後前記政夫及び被告等に再三その履行を催告し殊に昭和二十五年一月十三日原告銀行八木支店長岡橋旭太郎は被告ハマ子の案内で前記寺延政夫に面会し同被告の面前で右政夫に対しその病気の見舞旁々前記債務の履行を督促し、右政夫の死亡後なる昭和二十五年二月二日附翌三日着書面で同様催告したのみならず前記債権については原告及び被告等間に確定判決も存するのであるから、被告等は前記贈与当時その債務の存在及び原告を害することの各事実を知つていたものである。

と述べた。<立証省略>

被告等訴訟代理人は

原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求め答弁として、

原告主張の事実のうち訴外寺延政夫が原告に対しその主張の如き債務を負担していたこと、同訴外人が原告主張の日死亡し被告等が共同して相続により同訴外人の権利義務を承継したこと、別紙物件表記載の物件が現在被告政豊の所有として登記せられていることの各事実はこれを認めるけれども、その余は全部これを否認する。

別紙物件表記載の不動産のうち建物は元来被告政豊の所有に属するものであつて、訴外寺延政夫の死亡による相続によつてその所有権を取得したものではないから、原告の本訴請求中この物件に関する部分は既にこの点において失当である。

仮にそうでなくて別紙物件表記載の不動産全部がもと亡寺延政夫の所有に属するものであつたとしても、

(一)  被告政豊がその単独所有権を取得したのは原告主張の如き贈与によるものではなくて、

(イ)  同被告を除くその余の各被告は既に亡政夫の生前同人から各自の持分に等しい財産の贈与を受けていたので、相続財産分割の方法として為したのによるものであり、

(ロ)  そうでないとしても、その相続抛棄を為すべき法定期間を徒過したので近親相談の結果による勧奨により一たび取得した本件物件に対する各自の持分権を自発的に抛棄したのによるものであつて、

右分割は身分変動に附随する行為である点において、又右抛棄は事実行為であつて法律行為でない点において、いずれも民法第四百二十四条の取消の対象たりえないものであり、

(二)  被告政豊及び同ハマ子を除く各被告はいずれも未成年者であつて当時原告に対する債務の存在を知らず被告ハマ子また同様右債務の存在を知らず従ていずれも原告を害する意思無かりしものであり、

(三)  被告政豊また当時漸く成年に達したのみであつて亡父政夫の死亡当時からその原告に対する債務の存在を知らず昭和二十五年一月二十六日同被告を除くその余の被告等の前記持分権の抛棄の結果民法第二百五十五条により自然的反射的に単独所有権を取得したにすぎず、もとより右各被告に原告詐害の意思あることを知らず、

よつて原告の本訴請求は右何れの理由によつても失当であると陳述した。<立証省略>

三、理  由

原告が訴外亡寺延政夫に対し金七万二百十二円四十銭の約束手形金債権(満期昭和二十四年六月三十日)を有していたこと、右訴外人が昭和二十五年一月二十六日死亡し、被告ハマ子がその妻として、その余の各被告がいずれもその子として、共同して相続により右訴外人の権利義務を承継したこと、別紙物件表記載の土地がもと右訴外人の所有に属し後右相続により被告等に承継取得せられたことはいずれも当事者間に争がなく、成立に争のない甲第十号証、証人檜山勲の証言、同証人及び証人井上伊重郎同小柳清の各証言によりその成立及び原本の存在を認めうる甲第七号証、被告本人寺延ハマ子訊問の結果を綜合すると別紙物件表記載の建物もまたもと前記亡寺延政夫の所有に属していたものであることを認めうべく、右事実に前記当事者間争なき事実を綜合すれば右建物もまた前記相続により被告等に承継取得せられたものであることが認められ、右認定を覆して前記建物が被告政豊において前記相続と関係なく取得したものであるとの被告等主張事実を認めうべき証拠はない。

そうして右土地及び建物が現在被告政豊の単独所有に属し不動産登記簿上にも主文第二項掲記の各登記によりその旨登記せられていることは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第六号証の一、二、前記甲第七号証、証人檜山勲の証言被告本人寺延ハマ子訊問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、被告ハマ子は被告政豊の母(亡政夫の妻)であり被告勢津子同幸一同幸子同克政同治及び同順市はいずれも被告政豊の弟妹であつて未成年者であり、将来被告政豊の扶養を受くべき関係にあつたので同被告等の父(被告ハマ子の夫)政夫の生前から本件不動産は被告政豊において取得すべきものとその家族間でせられており右政夫死亡後においてもそのように考えられていたのであるが、法の規定により本件不動産が被告等の共有となつたのでこれを右の趣旨で被告政豊の単独所有となすべき旨の合意が右政豊及び被告ハマ子間に(同被告は自身の資格と寺延勢津子等前記被告六名の法定代理人たる資格において)亡政夫の相続財産分割の方法として成立し依て被告ハマ子からその親戚なる訴外檜山勲に対しその手続を依頼し、同訴外人において昭和二十七年五月十八日その旨即ち亡政夫の相続財産を分割する方法として本件不動産の所有権(単独所有権)を被告政豊において取得せしめることを被告等において合意する旨を記載した同年一月二十六日附相続財産分割協議書と題する書面(甲第七号証の原本)を作成しこれを添附して被告政豊の本件不動産に対する所有権取得登記の申請を為しその旨の登記(但し家屋については未登記であつたのでその所有権保存登記)を経由したことが認定せられ、右事実関係の下においては被告等間の前記合意は被告政豊に対しその余の被告等が本件不動産に対する各自の持分(被告ハマ子は二十一分の七、その余の被告等は各二十一分の二)をそれぞれ贈与する趣旨のものと判定せられ、叙上の認定を覆して、被告政豊を除くその余の各被告が単純に前記各自の持分を抛棄したにすぎないもの、との被告等主張の事実を認めるに足りる証拠はない。

そうして又被告ハマ子が前記亡政夫の妻であり被告勢津子同幸一同幸子同克政同治及び同順市がいずれも右政夫の未成年の子であつて右被告七名が同政豊と共同して右政夫の権利義務を相続により承継したものであること、右亡政夫がその生前原告に対し原告主張の手形金債務を負担していたことの前記事実と成立に争のない甲第八、第九号証、証人岡橋旭太郎同檜山勲同小柳清の各証言、被告本人寺延ハマ子訊問の結果の一部、郵便官署の作成部分の成立に争がないからその余の部分についても真正に成立したと認める甲第五号証、右岡橋、小柳各証人の証言により真正に成立したと認める甲第一号証及び右小柳証人の証言により真正に成立したと認める甲第十二号証の一乃至七を総合して認めうべき、前記亡政夫の死後その債務について原告から被告等を相手方とする右債務履行請求の訴が奈良地方裁判所葛城支部に提起せられ、同庁昭和二十五年(ワ)第二八号として繋属中昭和二十六年七月三日原告勝訴の判決の言渡があつたこと、右政夫はその生前なる昭和二十五年一月十三日当時の原告銀行八木支店長岡橋旭太郎の来訪を受け前記手形債務履行の督促を受けたが、被告ハマ子はその取次に出て岡橋から右督促であることの来意を告げられたこと、右政夫の死後たる昭和二十五年二月三日原告発同月一日附の前記債務履行を督促する旨記載ある内容証明郵便物が被告ハマ子の住所に配達せられたこと、その後同年四月十三日前記岡橋旭太郎が前記支店貸付係主任小柳清を伴い被告ハマ子を訪ね同被告に対し前記債務の履行を督促したが、その際同被告は右岡橋等に対し手許不如意の旨を告げてその猶予などを求めたことの各事実とを総合すると、被告ハマ子は遅くとも同被告自身の資格と前記勢津子等被告六名の法定代理人たる資格とにおいて前記相続財産分割の合意を確定的に為した時迄には本件手形金債務の存在を知つていたものと認定せられ、右認定に反する証人檜山勲及び被告本人寺延政豊同ハマ子の各供述部分は前顕各証拠と対照してこれを信用せず他に右認定を覆すに足りる証拠なく、なお被告政豊以外の各被告がいずれも原告に対する本件債務を弁済するに足りる資力あることはこれを認めるに足りる証拠がないから、被告ハマ子は債権者たる原告を害することを知りながら同被告自身たる資格と前記被告六名の法定代理人たる資格において前記贈与の意思表示をしたものと認定しなければならない。

そこで被告等は右原告を害することを知つて為された贈与はその当時被告政豊においてこれを知らなかつた旨主張し、同被告はその訊問に際しその旨供述するのであるが右被告本人の供述は未だ遽に信用することができないし、他に右被告等主張の事実を確認するに足りる証拠がないから右被告等の主張は失当であり、よつて被告等間で為された前記共有持分の贈与は原告と被告政豊の関係においてこれを取消すべく、そうして右贈与を受けた結果本件不動産について主文第二項掲記の登記が経由せられたものであること前認定のとおりであるから、同被告は原告に対する関係においてこれが抹消登記手続を為すべきものとする。

この点に関し被告等は、前記贈与は相続財産分割の一方法として為されたものであるところ、右分割は被告等の相続なる身分変動に附随した行為であるから民法第四百二十四条所定の取消の対象たりえない旨主張する。そうして被告等がその相続により亡寺延政夫の権利義務を承継したことはまさに被告等のいうとおり身分変動により生じた財産権の変動である。然しながらそのためにその承継した相続財産の分割までも右身分変動に附随する行為として前記民法法条の取消の対象たらずとする被告等の主張はその独自の見解であつて到底これを採用することができない。

叙上説明のとおり被告等間に為された贈与は本判決により原告と被告政豊の関係において取消され、その結果本件物件は被告等の共有(その持分は前記割合による)に復するのであり又被告等が前記共同相続を原因とする所有権取得登記を経由していないことは成立に争のない甲第六号証の一、二によつて明らかであるが、そのために被告等がその所有権取得登記手続を為すべき義務を負うものでないことは一般に不動産の所有権を取得した者が当然にはその取得の登記手続を為すべき義務を負うものでないのと同断であつて、他に被告等が右登記手続義務を負担することは原告の主張しないところである。(原告が被告等に対する前記約束手形金債権の債務名義に基き本件不動産に対し強制執行をしようとするのであれば不動産登記法第四十六条の二により代位登記を申請すればよいのであつてこのためにも被告等に対し前記所有権取得登記手続を求める権利を取得するものではない。)従て原告のこの請求部分は失当といわなければならない。

以上のとおり原告と被告政豊との関係において主文第一項掲記の贈与はこれを取消すべく、又同被告は主文第二項掲記の各登記の抹消登記手続を為すべき義務があるから原告の本訴請求中右取消判決及び義務の履行を求める部分はいずれも全部正当であるからこれを認容すべく、その余の部分即ち被告等に対しその共同相続を原因とする所有権取得登記手続を求める部分は全部失当であるからこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 竹内貞次)

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